
ポエトリーライディングとは、自転車を走らせながら喋り続けることで、詩のような言葉を立ち上げるための手法であり、造語である。
「Appeartus」は、アジア系移民の越境と語りにまつわるシリーズである。具体的には、越境者の内声を捉えるための装置として自転車型ラジオを作り、その装置を用いたポエトリー・ライディングを実験・制作する。ここでの越境者とは、言語(移住等で非母語で生活する状態)と、クイアネス(ヘテロやモノガミー等の異性愛規範から外れる状態)の面での越境中の者を指す。
本作ではAppear(現れる行為)に着目し、言葉を発した瞬間のみ(装置内の光が)点灯し、漕ぎ手の唇を地面に映す自転車型装置と、その装置による詩作の瞬間を捉えたエッセイフィルムによって構成される。深夜、あてもなく詩(のような言葉)を発し続ける(さもなくば光を失ってしまう)必死の運転によって、言語遊戯(Sprachspiel)のような、各言語の異なりが溶け合った言語を通じたアジア系の一移民の移動(Migration)の個人的な痛みが現れるだろう。
また詩の観点からは、ユージーン・ジョラスらが代表的な言語遊戯*1の流れを汲み、言語遊戯を通じて、各言語を音として扱うことで、「English or Deutsch?」というベルリンではお決まりのセリフから、言語同士の異なりをほぐし、音となって溶け合った言語がアジア系の一移民の移動(Migration)のパーソナルな痛みを語り出す。

《Appeartus #0》パフォーマンス / 2024年
ベルリン芸術大学大学院、ドイツ・ベルリン

《Appeartus #0》映像インスタレーション / サイズ可変 / 2023年
ベルリン芸術大学大学院、ドイツ・ベルリン
ベルリンで仲良くなった韓国系アメリカ人の友人、Hangil JangとZoomで話した。発音とアイデンティティの関わりについて話した。アメリカで生まれ育ち、英語が流暢に話せる妹がHangilに訛りを指摘したこと。そのZoomの声を聴きながら、マスク型装置が備え付けられた自転車に小林が乗り、夜の街を走り抜ける。発話と連動して点灯し、唇の像が地面へ投影されてゆく。しゃべり続けながら必死に運転する中で、ちりぢりになる言葉。運転中にこぼれ落ちた言葉を元にした詩が左右の壁に映し出される。

《Appeartus #0》映像インスタレーション / サイズ可変 / 2024年
個展「ポリパロール」、アートセンターBUG、東京
撮影:本吉映理
ジョラスの言語遊戯に対する手法は変化している。具体的には、先述の工業地帯の詩では、一文にさまざまな言語の単語が散りばめられた構成であったのに対し、「Babel: Across Frontiers」(制作年不詳)では、ほとんどの文を英語にし、重要な1、2文のみ他言語にする構成を採ることで、ヨーロッパの言語戦争に対する彼の立場の表明を試みている。